「退職給付金」という制度はありません|SNSで見かける「申請サポート」の注意点

退職給付金申請サポート広告に注意!

退職を控えた社員から、「SNSで『退職給付金をもらわないと損』って広告を見たんですけど、会社で申請してもらえますか?」と聞かれたことはありませんか?

SNSやネット広告では「退職給付金で最大○○万円」「失業保険の受給期間を延ばせる」といった宣伝をよく見かけるようになりました。

国民生活センターは2025年12月、こうした申請サポートをめぐる相談が増えているとして注意喚起を公表しています。東京労働局などの労働局やハローワークでも、同様の呼びかけが続いています。

「会社として何か伝えたほうがいい?」と迷ったときに押さえておきたいポイントを整理しました。


① 「退職給付金」ってどんな制度?

そんな名前の給付金はあるの?

「退職給付金」という名前の公的な給付制度はありません。

国民生活センターは、雇用保険の失業等給付(いわゆる失業保険)が、一般に「失業保険」「失業手当」「失業給付」「退職給付金」などと呼ばれることもある、と説明しています。広告の「退職給付金」は、こうした公的給付を独自の呼び方で宣伝しているものです。

また、相談事例の中には、健康保険の傷病手当金(病気やけがで働けないときの給付)とあわせた受給をうたうケースも見られます。

※会計上の「退職給付」とは別物です。企業会計でいう「退職給付」(退職金や企業年金など)とは関係ありません

失業等給付の受給額や日数はどうやって決まる?

いわゆる失業保険は、ハローワーク(公共職業安定所)で申請し、条件を満たした場合に受け取れる公的な給付です。給付額や期間は退職理由や勤務年数などによって異なり、行政機関の審査を経て決まります。

つまり、申請サポート業者が関わったからといって、受給額が増えたり、給付が保証されたりするものではないのです。


② 国民生活センターの注意喚起(令和7年12月3日公表)

相談はどのくらい増えている?

全国の消費生活センター等に寄せられた「失業保険の申請サポート」に関する相談件数は、次のとおりです。

年度 相談件数
2021年度 42件
2022年度 54件
2023年度 113件
2024年度 217件
2025年度(10月31日まで) 216件

2025年度は10月末の時点で、すでに前年度1年分とほぼ同じ件数に達しています。前年同期(90件)と比べると約2.4倍です。

契約しているのはどんな人?

2024年度の相談を分析した結果では、契約した人の平均年齢は42.7歳平均契約金額は約29万円でした。

年代別では50歳代が最も多く(約3割)、20歳代以下も2割を超えています。若手からベテランまで、幅広い世代がトラブルに遭っていることがわかります。

どんな相談が寄せられている?

公表資料に掲載された相談事例を、要約して3つ紹介します。

【ケース1】給付はもらえなかったのに、サポート費用は請求された(40歳代男性) WEB面談で「最大200万円の失業保険が受給できる」と説明され、約30万円のサポート契約を結んだ。教えられた手順どおりに申請したが、説明されたような給付は受けられず、費用だけを請求されている。

【ケース2】サポートを受ける前に解約したら、大部分が違約金に(30歳代女性) 「受給期間が長くなり、金額も増やせる」とうたうサイトを見て契約し、約20万円を振り込んだ。その後、退職しないことになり解約を申し出たところ、まだ何のサポートも受けていないのに、費用の大部分が違約金になると言われた。

【ケース3】うつ病と診断されるための「マニュアル」が届いた(30歳代女性) SNSで知った業者に約20万円をクレジットカードで支払った。サポート内容は、退職日までに業者指定のオンライン診療クリニックを受診してうつ病の診断を受け、すぐに働けないという書類をハローワークに出す、というもの。診断を受けるためのマニュアルまで送られてきたが、本人はうつ病ではないと感じており、詐欺にならないか不安に思っている。


③ 申請サポートの何が問題なの?

国民生活センターは、相談事例から主に3つの問題点を挙げています。

広告が誇大になっていない?

「最大○○万円」など、サポートを使えば誰でも高額の給付を受けられるかのような広告・勧誘が見られます。

しかし、給付は個別の条件をもとに審査で決まるもので、サポートを受ければ一律にもらえるものではありません。業者の指示どおりに申請しても、思ったような金額にならないことがあります。

解約できない・高額な違約金を取られることは?

一度契約すると、あとからサポートが不要になって解約を求めても、サポート開始前でも高額な違約金を請求される、あるいは解約自体を拒まれることがあります。

契約前に「何をしてもらえるのか」「いくらかかるのか」「解約するとどうなるのか」を必ず確認しておきましょう。

不正受給に巻き込まれる危険は?

いちばん注意したいポイントです。

実際の状況と違う内容で申請して失業保険を不正に受け取った場合、責任を問われるのは申請した本人です。

  • 受給した金額の最大3倍にあたる金額の返金・納付を命じられることがあります(雇用保険法第10条の4第1項)
  • 詐欺罪などとして刑事罰の対象になることがあります

「業者に言われたとおりにしただけ」「知らなかった」では済まされません。サポート費用を払ったうえに返還命令まで受ける、という事態にもなりかねないので、事実と違う申請を勧められたら絶対に応じないことが大切です。

資格のない業者は何ができる?

失業保険などの申請書類を、報酬を得て作成・提出代行できるのは、法律で社会保険労務士(社労士)や社労士法人などに限られています(社会保険労務士法第27条。弁護士・弁護士法人も可)。

資格のない事業者ができるのは、情報提供や助言までです。「社労士監修」などの表示があっても、実際に誰が何をしてくれる契約なのかは、契約前に確認しましょう。

そもそも失業保険の手続きは、ハローワークで無料で相談・案内を受けられます。有料のサポートを使わなくても、自分で進めることができるんです。


④ 労務担当者・会社としてできること

社員から相談されたら?

退職予定の社員から「退職給付金」について聞かれたら、次のポイントを伝えてあげてください。

  • □  「退職給付金」という公的な制度名はなく、雇用保険の失業給付などを指していることを説明する
  • □  受給の条件や金額は、住所地を管轄するハローワークで無料で確認できると案内する
  • □  有料サポートを検討しているなら、サービス内容・金額・解約条件を契約前に確認するよう伝える
  • □  事実と違う内容での申請を勧められても応じてはいけないことを伝える
  • □  契約に不安があるときは消費者ホットライン「188(いやや!)」に相談できると案内する

「188」は、最寄りの市区町村や都道府県の消費生活センター等につないでくれる全国共通の番号です。

会社側で気をつけたいことは?

退職時に会社が作成する離職証明書(ハローワークが交付する離職票のもとになる書類)は、失業給付の審査で使われる大切な書類です。退職理由などは事実どおりに記載しましょう。

万が一、社員から事実と異なる退職理由に変えてほしいと頼まれても、応じてはいけません。事業主が偽りの届出や証明をしたために不正受給が行われた場合、事業主も受給者と連帯して返還等を命じられることがあります(雇用保険法第10条の4第2項)。

あわせて、次のような対応もしておくと安心です。

  • □  退職者向けの案内資料に、ハローワークと「188」の連絡先を載せておく
  • □  離職証明書の退職理由・賃金額などを、記録と照らし合わせて確認してから提出する

まとめ:「退職給付金」の申請サポートで受給額が増えるわけではありません

「退職給付金」は法律上の制度名ではありません。失業保険の受給額や期間はハローワークの審査で決まり、業者を通したからといって増えるものではありません。

高額な契約や解約トラブルに加え、不正受給に巻き込まれ、本人が責任を問われるリスクもあります。退職予定の社員から相談を受けたら、まずは公的な窓口を案内してあげてください。

こんなとき 相談先
失業保険の条件・金額・手続きを知りたい ハローワーク(無料)
業者との契約・解約でトラブルになった 消費者ホットライン「188」
退職時の手続きや離職証明書の作成に不安がある 社労士

退職時の手続きや離職証明書の作成など、労務業務でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。スポット対応も承っております!


参考資料

🔗 参照:失業保険の給付額等を増やすことができるとうたう申請サポートに注意-不正受給を促すかのようなケースも!-|国民生活センター

🔗 参照:報道発表資料(報告書本文・PDF)|国民生活センター

🔗 参照:啓発資料「失業保険の金額・期間を増やせる!?という申請サポートに注意!」(PDF)|国民生活センター

🔗 参照:「失業保険の金額・期間を増やせる」とうたう申請サポートにご注意ください。|東京労働局

🔗 参照:全国のハローワークの所在案内|厚生労働省

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