【2026年10月1日施行】カスハラ・求職者等セクハラ対策の義務化

「同じお客様からの電話が3時間続いて、担当者が泣きながら受話器を置いていた」——こうした場面、これまでは現場の判断でしのいでいた会社も多いと思います。

でも令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)と求職者等に対するセクシュアルハラスメント(求職者等セクハラ)への対策が、すべての事業主の義務になります。施行まであと1か月。何をすればいいのかを整理しました。


① 法改正で変わること

いつから?と根拠の法律の解説

令和7年6月11日に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)」が公布されました。これにより、カスハラと求職者等セクハラの防止措置が事業主の義務となります。施行日は令和8年10月1日です。

あわせて、令和8年2月26日に2つの防止指針が公布されています。

指針 告示番号 対象
カスタマーハラスメント防止指針 令和8年厚生労働省告示第51号 改正労働施策総合推進法
求職者等に対するセクシュアルハラスメント防止指針 令和8年厚生労働省告示第52号 改正男女雇用機会均等法

さらに、令和8年4月24日には施行通達と、実務上の解釈を示したQ&A(「ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について」)が発出されました。細かい判断に迷ったときは、このQ&Aが実務の拠りどころになります。

カスタマーハラスメントとは?

指針では、次の3つの要素をすべて満たすものと定義されています。

① 顧客等の言動であって、 ② その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるもの

電話やSNS等のインターネット上で行われるものも含まれます。

ここで大事なのは、顧客等からの苦情のすべてがカスハラに当たるわけではないという点です。正当なクレームや、障害者が不当な差別的取扱いをしないよう求めること、社会的障壁の除去を必要としている旨の意思を表明すること自体は、カスハラには当たりません。

②の「社会通念上許容される範囲を超えた言動」の典型例は次のとおりです。

言動の内容が許容範囲を超えるもの 手段や態様が許容範囲を超えるもの
そもそも要求に理由がない、または商品・サービス等と全く関係のない要求 身体的な攻撃(暴行、傷害等)
契約等により想定しているサービスを著しく超える要求 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等)
対応が著しく困難な、または対応が不可能な要求 威圧的な言動
不当な損害賠償要求 継続的、執拗な言動/拘束的な言動(不退去、居座り、監禁)

「内容」と「手段や態様」の一方だけが許容範囲を超える場合でも該当し得る点に注意が必要です。

「顧客等」はどこまで含まれる?

思っているより広いです。

  • 顧客(商品を購入する人、サービスを利用する人)
  • 取引の相手方、取引先の担当者、契約交渉の担当者
  • 施設(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等)の利用者およびその家族
  • 施設の近隣住民
  • 今後商品の購入やサービスの利用等をする可能性がある人(潜在的な顧客)

Q&Aでは、まだ契約関係が発生していない人からの言動も、今後顧客になることが想定されない近隣住民からの言動も、3要素を満たせばカスハラに該当するとされています。

求職者等セクハラとは?

事業主が雇用する労働者による「性的な言動」により、求職者等による求職活動等が阻害されるものをいいます。

用語 範囲
求職者等 ①求人に応募する求職者
②採用に資する活動(就職説明会、インターンシップ、OB・OG訪問等)に参加する者
③教育実習、看護実習その他の実習を受ける者
求職活動等 採用面接への参加、就職説明会への参加、労働者への訪問、インターンシップへの参加、教育実習・看護実習等の受講 など(SNS等オンラインを介したものも含む)

【具体例】

  • インターンシップで、社員が学生に性的な冗談やからかいを意図的かつ継続的に行い、学生が苦痛に感じて活動が手につかなくなった
  • OB・OG訪問の際に社員から性的な関係を求められ、その学生の求職活動の意欲が低下した
  • インターンシップ中に社員が学生を執拗に私的な食事に誘い、求職活動の意欲が低下した

男性も女性も加害者にも被害者にもなり得ますし、同性に対するものも該当します。相手の性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず該当し得る点も、通常のセクハラと同じです。

対象になるのはどんな会社?

業種・規模を問わず、すべての事業主が対象です。 労働者を1人でも雇用していれば、パート・アルバイトだけの職場でも対応が必要になります。指針でも、周知・啓発の対象となる「労働者」は事業主が雇用する労働者のすべてを指すとされています。


② 企業がしなければならないこと

カスハラ対策:講じなければならない10の措置

区分 措置の内容
方針の明確化・周知啓発 ① カスハラには毅然とした態度で対応し、労働者を保護する旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
② カスハラの内容と、あらかじめ定めた対処の内容を労働者に周知する
相談体制の整備 ③ 相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知する
④ 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする
事後の迅速かつ適切な対応 ⑤ 事実関係を迅速かつ正確に確認する
⑥ 被害者に対する配慮のための措置を適正に行う
⑦ 再発防止に向けた措置を講ずる
抑止のための措置 特に悪質と考えられるカスハラへの対処の方針をあらかじめ定め、労働者に周知し、対処を行うことができる体制を整備する
あわせて講ずべき措置 ⑨ 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知する
⑩ 相談したこと等を理由として不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

②の「対処の内容」として指針が挙げているのは、次のようなものです。

  • 管理監督者にその場の対応の方針について指示を仰ぐ
  • 可能な限り労働者を一人で対応させない
  • 犯罪に該当し得る言動は警察へ通報する
  • 本社・本部等へ情報共有を行い指示を仰ぐ
  • 十分な説明を行ってもなお繰り返しの要求が続く場合は、一定の時間の経過をもって退店を求めたり、電話を切ったりする

⑧の「特に悪質な事案への対処」の例としては、行為者に対する警告文の発出店舗・施設等への出入り禁止が示されています。

なお、これらの対策を講じる際は、消費者の権利や、障害者差別解消法における不当な差別的取扱いの禁止・合理的配慮の提供義務に留意する必要があります。

求職者等セクハラ対策:講じなければならない11の措置

区分 措置の内容
方針の明確化・周知啓発 ① 求職者等セクハラを行ってはならない旨の方針を明確化し、労働者に周知・啓発する
② 行為者を厳正に対処する旨の方針および対処の内容を、労働者に周知・啓発する
求職活動等に関するルールをあらかじめ明確化し、労働者および求職者等に周知・啓発する
相談体制の整備 ④ 相談窓口をあらかじめ定め、求職者等に周知する
⑤ 相談窓口担当者が適切に対応できるようにする
事後の迅速かつ適切な対応 ⑥ 事実関係を迅速かつ正確に確認する
⑦ 被害者に対する配慮のための措置を行う
⑧ 行為者に対する措置を適正に行う
⑨ 再発防止に向けた措置を講ずる
あわせて講ずべき措置 ⑩ 相談者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者および求職者等に周知する
⑪ 労働者が事実関係の確認等に協力したこと等を理由として、解雇その他不利益な取扱いをされない旨を定め、労働者に周知・啓発する

③の「求職活動等に関するルール」とは、面談等を行う際の規則のことです。Q&Aでは次のものが例示されています。

  • 面談時間および場所の指定
  • 実施体制(複数人で対応することとする等)
  • 求職者等とのやり取りに用いるSNSの種類の指定

このルールは、定めるだけでは足りません。労働者に対しては研修や講習で周知・啓発し、求職者等に対してはホームページやパンフレット等で面談等に関する留意事項を周知する必要があります。

カスハラとの一番の違いは、周知先に「求職者等」が入ることです。相談窓口も、社内向けではなく採用ページなどで外部に見える形にしておく必要があります。

就業規則の改定は必須?

自社の労働者が取引先等に対してカスハラを行った場合、就業規則等に基づいて懲戒その他の措置を講ずることが望ましいとされています。ただしQ&Aでは、信用失墜行為や服務規律違反に対する既存の懲戒規定で対応できる場合は、カスハラ独自の規定を新設する必要はないとされています。

まずは自社の就業規則を開いて、既存の服務規律・懲戒規定でカバーできるかを確認するところからで大丈夫です。

10月1日までにやることチェックリスト

  • □ カスハラに毅然と対応し労働者を保護する旨の方針を文書化する
  • □ カスハラの内容と具体的な対処手順(誰に、どのタイミングで報告し、どこで打ち切るか)を決める
  • □ 特に悪質な事案への対処方針(警告文、出入り禁止など)と、その判断ができる体制を決める
  • □ カスハラ相談窓口を決め、全労働者に周知する
  • □ 求職者等セクハラを行ってはならない旨の方針を、採用に関わる全社員に周知する
  • □面談ルール(時間・場所・複数対応・使用SNS)を明文化する
  • □ 求職者等向けの相談窓口を設け、採用ページやパンフレットに掲載する
  • □ 相談窓口担当者向けの対応マニュアル・研修を用意する
  • □ 就業規則の服務規律・懲戒規定を確認する(必要に応じて改定)
  • □ プライバシー保護と不利益取扱い禁止を社内規程に明記する

③ 担当者が知っておきたいこと

ここからは、実務で「これはどうなるの?」と迷いやすいポイントを、厚労省のQ&Aをもとに整理します。

顧客と接しない部署の社員にも周知が必要?

必要です。 「顧客等」には取引の相手方や施設の利用者も含まれるため、直接の接客がない部署でも対象になります。指針上の「労働者」は事業主が雇用する労働者のすべてを指すので、所属部署や雇用形態を問わず、全員に周知しなければなりません。パート・アルバイトも当然含まれます。

訪問先で受けた言動もカスハラになる?

なります。 労働者が通常就業している場所以外でも、取引先の事務所や顧客の自宅など、業務を遂行する場所は「職場」に含まれます。訪問看護・訪問介護のように利用者宅で働く場合、その利用者やご家族からの言動も対象です。

カスハラかどうか、労働局が判断してくれる?

してくれません。 事実関係の確認を迅速かつ正確に行うのは事業主の義務であり、都道府県労働局は個々の言動がカスハラに該当するかどうかの判断は行いません。会社が自ら、指針の定義に照らして判断する必要があります。

判断の際は、言動の目的、経緯や状況、業種・業態、業務の内容や性質、言動の態様・頻度・継続性、労働者の属性や心身の状況、行為者との関係性などを総合的に考慮します。就業環境が害されたかどうかは、「平均的な労働者の感じ方」が基準です。ただし、強い身体的・精神的苦痛を与える態様であれば、1回の言動でも該当し得ます

なお、自社側の不適切な対応が言動の原因や背景になっている場合もある、という点も判断の際に留意すべきとされています。

顧客とのやり取りを録音・録画するときの注意点は?

対処方法として録音・録画を導入する会社は多いと思いますが、個人情報保護法との関係に注意が必要です。

録音・録画で取得する情報が個人情報に該当する場合、利用目的をできる限り特定し、本人への通知または公表が必要です。カスハラ事案の事実関係の確認に使うのであれば、その旨をあらかじめ利用目的に含めておかなければなりません。

公表の方法としては、プライバシーポリシー等に利用目的を記載し、自社ホームページのトップページから1回程度の操作で到達できる場所に掲載する方法が示されています。

その場で「録音しています」と伝える義務まではありませんが、カメラの設置状況等から本人が容易に認識できない場合は、認識可能にするための措置が必要です。

相談窓口は他のハラスメントと一体にすべき?

パワハラやセクハラは他のハラスメントと複合的に生じることがあるため一元化が望ましいとされていますが、カスハラは別扱いでかまいません。事案が発生したその場ですぐ相談することや、現場に精通した上司に相談することが適切な場合もあるため、労働者の上司に当たる管理監督者等を相談担当者とすることも認められています

一方、求職者等セクハラの相談窓口については、求職者が採用担当である人事担当者への相談をためらうことも想定されるため、人事担当者以外を担当者に指定することも考えられるとされています。

内定者はどちらの指針で対応する?

採用内定により労働契約が成立したと認められる場合は労働者として扱われ、通常のセクハラ防止指針に沿った対応が必要です。ただし内定者が学生の場合、入社までの間に内定者向け説明会や懇親会への参加が想定されるため、求職者等セクハラ防止指針の内容も参考にすることが望ましいとされています。

労働契約が成立したと認められない場合は、その内定者は「求職者等」に該当します。

定期的に採用していない会社も対応が必要?

人員不足のときだけ中途採用する会社の場合、求職者等と労働者が接する機会がない期間は、求職者等セクハラの措置をすべて講じていなくても差し支えないとされています。ただし、採用活動を開始して説明会や面接を実施することになれば、その時点ですべての措置義務を履行する必要があります

「うちは採用していないから関係ない」ではなく、「採用を始めるときまでに準備しておく」が正解です。

自社が「加害者側」になることもある

見落とされがちですが、今回の改正では事業主・労働者双方の責務も定められています。

  • 事業主:自社の労働者が他社の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の配慮をすること
  • 労働者:他社の労働者に対する言動に必要な注意を払い、事業主の措置に協力すること

さらに、他の事業主から事実関係の確認等について協力を求められた場合には、これに応ずるよう努めなければなりません(努力義務)。協力を求められたことを理由に契約を解除するなどの不利益な取扱いは望ましくないとされています。

取引先の担当者に対する自社社員の高圧的な態度が、相手方から「カスハラです」と指摘される時代になった、ということです。営業部門への周知は特に丁寧に行いたいところです。

罰則はある?

改正法に直接の罰則規定はありません。ただし、措置義務違反は都道府県労働局による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合には企業名が公表され得ます。また、カスハラをめぐる紛争は調停の対象にもなります。

それ以上に大きいのは、対策を怠った結果として社員が負傷したりメンタル不調で休業したりした場合に、安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求を受けるリスクです。罰則の有無ではなく、社員を守る仕組みとして整えておきたいところです。

パワハラ・セクハラ・マタハラの指針も改正されている

今回あわせて、既存のパワハラ防止指針、セクハラ防止指針、妊娠・出産等に関するハラスメント防止指針についても、令和8年10月1日適用の改正版が公表されています。

たとえば、労働者の性的指向・ジェンダーアイデンティティについて、本人の了解を得ずに暴露すること(アウティング)に加え、カミングアウトを禁止する、または強要する行為もパワハラに該当し得ることが明確化されています。

カスハラ対応の準備にあわせて、既存のハラスメント防止規程も一度見直しておくことをおすすめします。


まとめ:4つのポイント

項目 内容
施行日 令和8年10月1日
対象 業種・規模を問わず、労働者を雇用するすべての事業主
カスハラ 方針の明確化・相談体制・事後対応・悪質事案への対処体制など10の措置が義務
求職者等セクハラ 面談ルールの明確化・求職者等向け相談窓口の周知など11の措置が義務

ポイントは「顧客からの苦情がすべてカスハラになるわけではない」ということです。会社に求められているのは、顧客を敵に回すことではなく、どこまでが正当な要求で、どこからは組織として対応を打ち切るのか、その線引きをあらかじめ決めて社員に伝えておくことです。線引きが決まっていない職場ほど、現場が一人で抱え込みます。

そして求職者等セクハラは、「社員に悪気はなかった」で済まなくなりました。OB・OG訪問やインターンシップを実施している会社は、面談ルールの明文化から着手するのが近道です。

方針の文書化、対処マニュアルの作成、就業規則の見直し、社内研修まで、10月1日に向けた準備でお困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。スポット対応も承っております!


参考資料リンク

🔗 参照:職場におけるハラスメントの防止のために|厚生労働省

🔗 参照:リーフレット(詳細版)「2026年(令和8年)10月1日から、カスタマーハラスメント対策、求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策が義務化されます!」|厚生労働省

🔗 参照:事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)|厚生労働省

🔗 参照:事業主が求職活動等における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第52号)|厚生労働省

🔗 参照:ハラスメント防止措置義務規定等における解釈事項について|厚生労働省

🔗 参照:カスタマーハラスメント対策企業マニュアル|厚生労働省

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